(この記事はAIで作成しております)
はじめに
これまで本連載では、人口減少社会では人材こそが最も希少な資源になること、中国はEVを軸に産業基盤全体を育成していること、そして日本が本当に警戒すべきなのは自動車産業の「消滅」ではなく「低収益化」であることを述べてきました。
さらに第4回では、日本の競争力低下の本質は、技術そのものではなく、技術を支える産業基盤の弱体化にあると考察しました。では、なぜ日本企業は長期的な競争力よりも短期利益を優先するようになったのでしょうか。その背景には、1990年代以降に進められた企業統治改革や金融制度改革があります。これらは当時としては合理的な改革でした。しかし、人口減少社会となった現在でも、その仕組みは最適なのでしょうか。今回は「株式会社は誰のために存在するのか」という根本的な問いから考えてみたいと思います。
株式会社は誰のために存在するのか
日本企業は長い間、株主だけでなく、従業員、取引先、金融機関、地域社会など、多様な利害関係者(ステークホルダー)との信頼関係を重視して経営してきました。一方、1990年代以降は、株主価値を最大化する「株主資本主義」の考え方が急速に浸透しました。配当や資本効率、自社株買いなどが経営指標として重視されるようになり、企業経営の透明性や効率性は確かに向上しました。しかし、その一方で、企業が本来持っていた「人を育て、技術を蓄積し、社会へ還元する」という役割は相対的に弱まったのではないでしょうか。
四半期決算・海外投資家比率変化は何をもたらしたか
1990年代初頭、日本企業の株式は金融機関や取引先企業による持ち合いが中心でした。又、四半期決算や四半期開示は、投資家へ迅速な情報を提供し、市場の透明性を高めることを目的として導入されました。これは資本市場の健全性を高めるという点で重要な制度です。しかし、その反面、経営者が三か月単位の業績を強く意識するようになったことも事実です。本来、設備投資や研究開発、人材育成は数年から十数年という時間をかけて成果が現れます。それにもかかわらず、短期間の利益が評価される環境では、長期投資は後回しになりやすくなります。制度そのものが悪いのではありません。しかし、人口増加社会で合理的だった仕組みが、人口減少社会でも最適とは限らないのです。もう一つの要因である、海外投資家の保有比率の上昇はどの様な変化をもたらしたのでしょうか。東京証券取引所の統計では、外国人投資家の保有比率は1990年代初頭の数%台から、現在では約3割前後まで上昇しています。同じ時期に、上場企業では配当や自社株買いによる株主還元も大幅に増加しました。一方で、企業は資本効率(ROEなど)の改善を強く求められるようになり、四半期ごとの業績への市場の注目も高まりました。もちろん、これは企業経営の透明性を高めるという点では大きな成果です。しかし別の見方をすれば、「長期投資より短期収益を優先しやすい環境」が形成されたとも考えられます。私はここに、日本企業の経営思想が変化した一つの転換点があったと考えています。
株式持ち合いは本当に悪だったのか
かつて日本企業では、企業同士が株式を持ち合う「持ち合い」が一般的でした。この仕組みは、経営者への緊張感を弱める、資本効率を低下させるなどの理由から見直されました。その批判には一定の合理性があります。しかし一方で、持ち合いは敵対的買収を防ぎ、長期的な設備投資や人材育成を支える土台でもありました。持ち合いが減少し、海外投資家の比率が高まる中で、日本企業は資本市場からの短期的な収益要求をより強く受けるようになりました。私は、この改革を善悪で評価するべきではないと考えます。重要なのは、「人口減少社会において現在の資本市場の仕組みが、本当に日本の長期競争力と両立しているのか」という視点です。
派遣労働の拡大は何を変えたのか
1999年の労働者派遣法改正以降、派遣労働の対象業務は大幅に拡大され、2004年には製造業への派遣も解禁されました。その後、日本の非正規雇用比率は約20%程度から現在では約37%前後まで上昇しています。また、「正社員として働きたいが非正規で働いている」不本意非正規雇用者も長年にわたり一定数存在しており、厚生労働省はその推移を継続して公表しています。ここで重要なのは、「派遣社員が増えた」ことではありません。企業が人材を「固定資産に近い長期投資」ではなく、「必要に応じて調達・削減できる変動コスト」として管理しやすくなったことです。これは景気変動への対応力を高める一方、人材育成や技能継承への投資を抑制する誘因にもなりました。つまり、制度改革は企業の柔軟性を高めましたが、その副作用として人的資本の蓄積を弱めた可能性があります。中小企業庁の中小企業白書のデータを参照に表にまとめたものが以下の通りとなります。
| 項目 | 1990年頃 | 2025年 |
|---|---|---|
| 大企業営業利益率 | 約4~5% | 約8~10% |
| 中小企業営業利益率 | 約3~4% | 約2~3% |
| 大企業の現預金 | 約60兆円 | 約160兆円超 |
| 中小企業価格転嫁率 | 推定70~80% | 約53% |
| 労務費転嫁率 | 推定70%前後 | 約50% |
この表から分かるのは、大企業は利益率が約2倍になった。中小企業は利益率が低下した。価格転嫁率は約7~8割から約5割程度まで低下した。と言う事実です。
人的資本は「育成」と「還元」の両方が必要である
近年、「人的資本経営」が盛んに議論されています。しかし、その議論の多くは若年層の教育やリスキリングに重点が置かれています。もちろん、それは重要です。しかし私は、それだけでは人的資本経営は完成しないと考えています。企業は、熟練技術者やベテラン社員が何十年にもわたり築き上げた経験や技能によって利益を生み出してきました。その利益は企業価値を高め、株主への配当や内部留保にもつながっています。であれば、その人的資本から生まれた価値を、現役時代だけでなく、高齢期の生活の安定や技術継承にも循環させることが、人口減少社会では重要になります。これは単なる福祉政策ではありません。企業が人的資本から得た利益を、社会全体の持続可能性へつなげる仕組みづくりです。高齢の熟練技術者が、低賃金の非正規雇用へ移行し、その知識や経験が十分に活用されないのであれば、それは企業にとっても社会にとっても大きな損失です。
おわりに
私は、四半期決算も、株式持ち合いの解消も、派遣労働の規制緩和も、日本を弱くすることを目的として行われた改革だったとは考えていません。むしろ当時の経済環境では合理的な選択だったのでしょう。しかし、それらの改革が積み重なった結果、企業経営は短期利益を重視し、人材・技術・産業基盤への長期投資が後退した可能性があります。つまり「一つ一つの改革は合理的だった。しかし、それらを同時に進めた結果、人材・技術・利益が循環する日本型産業システムは徐々に弱体化した。そのことが現在の低成長や実質賃金の停滞、技術継承の困難さにつながっている可能性がある。」と言う事になります。人口が増え続ける社会では、この仕組みでも機能したかもしれません。しかし人口減少社会では、人材そのものが最も希少な資本になります。株式会社は株主だけのために存在するのでも、経営者だけのために存在するのでもありません。社会が育てた人材と技術を未来へつなぎ、持続可能な価値を創造するために存在するのです。今、日本に求められているのは、企業の利益を否定することではありません。利益を未来への投資へと循環させる、新しい資本主義の姿を考えることではないでしょうか。
次回予告
第6回「日本は何を残し、何を諦めるべきか」
人口減少社会では、すべての産業を維持することはできません。限られた人材と資本をどこへ集中させるべきなのか。日本が今後も世界で競争力を維持するための「産業の選択と集中」について、具体的な政策提言を行います。